刑事処分2
ピンクの紙に書かれた出頭の日はあいにく仕事が立て込んでいたため、電話をした。
自動受付に繋がったため、ガイダンスに従ったところ、別の番号を案内されたためそちらにかけ直す。
いかにもベテラン警察官というような声色の方が出られた。
翌週であれば都合がいいことを伝えると、その日に来てくれと言われた。
周りに迷惑をかけなくてよく一安心である。
出頭は翌週となった。
それでも少し忙しかったため、半休にし朝一で向かうことにした。
免停や免取りの記事をしらべるとスーツで行き、反省文を持っていくと処分が軽くなることがあるとあったため、それぞれ用意して向かった。
反省文は正直に違反内容を書き、今後どうしていくかなどを添えた。
機会があれば載せようと思う。
交通執行課に向かう前にお金をおろす。
速度違反は最大10万円の罰金であるためこれを借金して用意する。
現地に着くとすでに3名ほどが受付にならんでいた。
天気が良く暑い日であったが空調は一切ついていないようで暑かった。
8:25くらいになると少し早いが受付が開き、それぞれピンクの紙を見せて案内を受ける。
仲間がいたような気がして少し安心した。
受付をすると番号を渡される。
待合所のようなところに案内され、そこにある画面に映る数字の横に自分の番号が表示されたら数字のブースに向かえと言われる。
しばらくすると1番から3番までがモニターに映され、一様に重い足取りでブースに向かっていった。
こちらでーすと遠い声が聞こえる。
部屋は区切られていたため、ブースの扉が閉まると待合所はまた静寂に戻る。
そこから10分程度待つと自分の番号がついた。
最初は警察官と違反内容を確認するらしい。
私の担当はこれまたいかにも警察官というイケおじさん。
強面だがニコニコ笑顔で私を待っていた。
席に着くと身分を確認され、その後違反内容についてもう一度繰り返される。
穏やかな口調で確認される。
特に引っ掛かるところもなかったため全て肯定した。
最後に素直に反省しているってことでいいかな?と聞かれた。
反省している。誰かを轢いてしまう前にこのような形で取り締まってもらえて良かった。
プライベートで色々あり、ここ最近は常に焦っておりまわりが見えていなかった。
もう一度法規を確認し、安全運転の重要性を勉強すると答えた。
できるだけ丁寧に、反省を込めて伝えたつもりだった。
本心だった。
ただこれが警察官のスイッチを押したようで、なぜ速度が出たことに気づかなかったのか、白バイ隊員だったからわかるが音や振動でわかるのではないか、風でも気がつけたのでは無いか、すこしもメーターを見なかったのか、などなど矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
それぞれ答えても、いやでもこうじゃないか、おかしい、普段から飛ばしているのでは無いかなどとまるで会話にならない。
会話のトーンもかわり、まるで取り調べだ。
そこで何となくわかった。
私がどういう理由で違反したかは問題では無いのだ。反省しているかも関係ない。
警察官の中では私は常に爆走をして周りを危険に晒す悪者なのだ。そんな奴が今回たまたま捕まっただけなのだ。
捕まっただけ、というよりは、我々警察が捕まえ街の平和を守ったのだ。
これから悪者に正義の鉄槌を下すのである。
そこに反省やそれぞれがもつ諸事情は邪魔なのである。
悪者は最後の最後まで悪者でいてほしい。
そんな印象を受けた。
なんだか悲しくなった。
それでも、今考えると言われる通りである。反省していると答え続けた。
少しボルテージが下がったところで、聞き取りの内容を調書に加えられる。
素直に認め犯罪している。と。
それをじっと待つ。
隣のブースから飲酒運転をしたような内容の会話が聞こえてくる。
一杯でも飲酒運転になると叱られているようである。
加筆した内容を印刷し再度確認される。
割印などを押して一先ず終わりである。
死にたいなぁという気持ちが沸々湧いてくる。
次は検察である。自ら送検されるのである。
少し滑稽である。
こちらは先ほどより少し明るい部屋だった。
ここでもお手本のような、子綺麗で少し上から話してくる検事が私を向かえた。
同じく違反内容について確認される。
相違ないことを伝えるとこちらでも押印する。
じゃあこのあと裁判になるからまた待っててと言われた。
ここで、私は反省文はいつ提出するのかと聞いた。
そう、この時まで行政処分も同時になされると勘違いしていたのである。
検事はめんどくさそうに、それは何ですか?と聞いてくる。
私はここで出すものだと思い込んでいたため、違反に至った経緯と反省をまとめてきたのですが、、、と言う。
検事はこれまためんどくさそうに、じゃぁ少し見せてもらうといい私から反省文の入った封筒を引き取った。
全身でめんどくさいと伝えるような体勢で斜め読みしていく。
数十秒くらいでだるそうにこちらに向き直し、まぁ言いたいことはわかるけどようは処分を軽くしろってこと?できるわけないじゃんと一蹴。
立て続けに、我々や警察官が同じようなことしたらクビだよ、だから法規を守っている。
それに例外を入れたら処分が不平等になるではないか。
というような内容が言葉を変え表現を変えしばらく続いた。
おそらく違反内容の確認より長い時間ネチネチと続いた。
これは先程の警察官よりも私には応えた。
そもそもがもう落ち込んでいる状態であったところに先程の警察官である。
ここに検事が加わったことにより、希死念慮は一層強くなる。
そこに凶器があればおそらく自分を刺していたと思う。
ようやく一息ついたところで、私に言われても困る。まぁ返しておくよと少しくしゃくしゃになった反省文を突き返される。
なんとか、はい。失礼しますと絞り出し部屋を後にした。
今書いていても少しキュウと辛くなる。
この後は罰金を言い渡されるわけであるが、もうそのまま死んじゃおと執行課の建物を出て少し歩き始めたところで会社のケータイが鳴った。
どうやら私が休みで困っており午後イチでいいから出社次第来いというのである。
このタイミングは何なのだろう。
今死のうと決めた人間に、こんなにもタイミング良く一方的に約束が取り付けられるのだろうか。
ここで私は少しでも早く出社しなければというスイッチに切り替わった。
今来た道を戻る事にした。
死ぬのは役目を終えてからでもいい。
待合室に戻るとすでに私の番号が表示されており、罰金を言い渡される窓口に行くと9万円を言い渡された。
これを支払い免許証を返してもらってから再度執行課を後にした。
この時点では免許証には特に何も書かれなかった。
出社中の電車の中で反省文について調べると、今回の刑事処分ではなく、この後の行政処分で出すものであったことに気づき、検事の反応が理解できた。
この日の仕事は何だか必要とされることが多く、変える頃には死ぬと言うより明日の仕事をどうしていくかでいっぱいであった。
違反から1ヶ月半が過ぎたが、未だ行政処分の案内は来ない。
毎日毎日郵便受けを見るのが憂鬱である。